微分可能姉妹

大学への数学」の問題の中に、次のようなものがありましたとさ。

定数 a, b, c について関数
f(x) = \left\{\begin{array}x^3-x^2+2 & (x \leq 1) \\ ax^2 + bx + c & (x > 1)\end{array}\right.
を考える。
f(x) は x = 1 において微分可能で、f(3) = 0 を満たしている。
このとき、a, b, c の値を求めよ。
(一橋大・経-後期)


この問題の簡単な解き方は、次のようなものです。
g(x) = x^3-x^2+2, h(x) = ax^2 + bx + c とおくと
f(x) が x = 1 で連続であることから
g(1) = h(1) (グラフが繋がっている)
g'(1) = h'(1) (x = 1 における接線がただ一つ)
これらと f(3) = 0 を連立すれば、a, b, c が分かります。


しかしながら、この解き方に意義を唱える人もいます。
議論が厳密ではないからでしょうか。
そういえば、自分もこの論法の正当性を保証する定理を知りません。
そこで、証明してみましたよ。

[ 微分可能姉妹定理 ]
f(x) = \left\{\begin{array}g(x) & (x \leq a) \\ h(x) & (x > a)\end{array}\right.
について、f(x) は x = a で微分可能で、g(x) と h(x) は多項式とする。
このとき、
g(a) = h(a) かつ g'(a) = h'(a).

※g(x) と h(x) を姉妹に例え、叶姉妹とかけたダジャレです。


[ 証明 ]
f(x) の x = a における左極限と右極限が一致することを使う。
f(a) = g(a) であることから
左極限は
\lim_{x \rightarrow a-0}\frac{f(x)-f(a)}{x-a} = \lim_{x \rightarrow a-0}\frac{g(x)-g(a)}{x-a} = g'(a)…(1)
右極限は
\lim_{x \rightarrow a+0}\frac{f(x)-f(a)}{x-a} = \lim_{x \rightarrow a+0}\frac{h(x)-g(a)}{x-a}…(2)
ここで、h(x)-g(a) を x-a で割った商を Q(x), 余りを R(余りが定数であることによる) とおくと
(2) =\lim_{x \rightarrow a+0}\left\{Q(x) + \frac{R}{x-a}\right\}.
これが収束するには R = 0 が必要。
また、R は h(x)-g(a) を x-a で割った余りであるから、剰余定理より R = h(a)-g(a).
したがって g(a) = h(a).
このことにより、Q(x) は h(x)-h(a) を x-a で割った商であることが分かる。
さらに、h(x)-h(a) は x-a で割り切れる。
多項式 t(x) = a_0x^n + a_1x^{n-1} + \cdots + a_{n-1}x + a_n について
t(x)-t(a) = a_0(x^n-a^n) + a_1(x^{n-1}-a^{n-1}) + \cdots + a_{n-1}(x-a).
ここで、x=a のとき x^k - a^k = 0 なので因数定理より x^k - a^k は x-a で割り切れる。
よって t(x)-t(a) は x-a で割り切れる。)
したがって、Q(x) = \frac{h(x)-h(a)}{x-a} であるから
(2) =\lim_{x \rightarrow a+0} Q(x) = \lim_{x \rightarrow a+0}\frac{h(x)-h(a)}{x-a} = h'(a).
(1) = (2) であるから g'(a) = h'(a).


めでたし。


[ 追記 ]
h(x)-h(a) が x-a で割り切れることは、x = a のとき h(x)-h(a) = 0 であることから因数定理により明らかでした。
っていうか、そもそも R=0 であることから直ちに導かれますね。
何をやってるんだか。