濃度

集合の"大きさ"を比べるには, 二つの集合間の写像を考えると都合がよいのです.
例えば, 二つの集合間に全単射が存在すれば, 二つの集合の"大きさ"は等しいと考えることができます.
というわけで, X, Y の間に全単射が存在するとき
|X|=|Y|
とかき, 二つの集合は同じ濃度(cardinality)を持つとか, equipotent であるなどと言います.
これが同値関係になることは明らかです.
さて, 各集合 X に対してその濃度 |X| を表す集合として基数(cardinal number)というものを考えたいと思います.
しかしながら, 各集合 X に対してその濃度が存在することを言うためには, 正則性の公理か選択公理が必要であることが知られています.
選択公理を使うと, これは「任意の集合を整列順序づけられる」という主張と同値であることが証明できるので, 整列順序を用いて基数を定義することができるのであります.
基数の定義は後回しにして, その前に基数の順序を定義しておきます.
X から Y への単射が存在するとき, |X| \leq |Y| と定義します.
特に, 全射が存在しないなら |X| < |Y| とします.
これは半順序で, さらに選択公理を仮定すると全順序になることが確かめられます.
ところで, 次が成り立ちます.



任意の X に対して |X| < |P(X)|.

基数はまだ定義していませんので, 単射が存在して全射は存在しないという主張です.

証明
X から P(X) への全射が存在しないことをみるために, 任意の写像 f:X \rightarrow P(X) に対してある Y \subset P(X) が存在して, それが f の像に含まれないことをみます.
Y = \{x \in X : x \notin f(x)\}
と定義します.
ここで, f(z) = Y となる z \in X が存在したとすると
z \in Y なら z \notin f(z) = Y となり矛盾し,
z \notin Y なら z \in f(z) = Y となり, やはり矛盾.
以上により, 全射は存在しないことが分かりました.
X から P(X) への単射が存在することは明らかです.

次の定理は, 高校数学で言うところの「はさみうちの原理」のようなもので, あとの証明に使われます.

A_1 \subset B_0 \subset A_0 かつ |A_1| = |A_0| ならば |A_1| = |B_0| = |A_0|.

証明
fA_0 から A_1 への全単射とします.
そして,
A_{n+1} = f(A_n)
B_{n+1} = f(B_n)
と定義します.
明らかに
A_n \supset A_{n+1}, B_n \supset B_{n+1} です.
さらに, A_0 \supset B_0 より A_n \supset B_n です.
ここで, C_n = A_n \setminus B_n とし,
C = \bigcup_{n=0}^{\infty}C_n, D=A \setminus C とおきます.
f単射であることにより
f(C_n) = f(A_n \setminus B_n) = f(A_n) \setminus f(B_n) = A_{n+1} \setminus B_{n+1} = C_{n+1}
なので
f(C) = \bigcup_{n=0}^{\infty}f(C_n) = \bigcup_{n=0}^{\infty} C_{n+1} = \bigcup_{n=1}^{\infty} C_n.
そして, A_0 から B_0 への写像 g を, x \in C なら g(x)=f(x), x \in D なら g(x)=x と定義します.
x \in C なら f(x) \in C であることにより f|Cf|D の値域は互いに素で, それぞれ単射なので, g単射です.
また, g の値域は f(C) \cup D = A_0 \setminus C_0 = B_0 です.
よって g全単射ですぞ.

他にも色々な証明が知られているようです.
ともあれ, このことから直ちに次の定理が導かれ, 基数の順序が半順序になることが分かります.

|A| \leq |B| かつ |A| \geq |B| ならば |A| = |B|.

証明
A から B への単射f,
B から A への単射g とおきますよ.
明らかに g(f(A)) \subset g(B) \subset A です.
g \circ f:A \rightarrow A単射で値域が g(f(A)) なので A から g(f(A)) への全単射が存在することになり |A| = |g(f(A))|.
同じ理屈で |B| = |g(B)|.
そんなわけで, 上の定理で A_0 = A, B = g(B), A_1 = g(f(A)) とおけば証明終了です.

基数の演算は次のように定義されます.

|A| = \kappa, |B| = \lambdaAB が互いに素のとき
\kappa + \lambda = |A \cup B|.
\kappa \cdot \lambda = |A \times B|.
\kappa^{\lambda} = |A^B|.

集合 AB の選び方によらないことは明らかです.