べき集合の公理(Power Set)

べき集合の公理
\forall X \exists Y \forall u(u \in Y \leftrightarrow u \subset X)



ここで, U \subset X\forall z(z \in U \rightarrow z \in X) の略記であると考えます.
この UX の部分集合と呼び, U \neq X のとき, X の真部分集合(proper subset)であると言います.
部分集合が集合であることは, 分出の公理によります.
べき集合の公理は, 任意の集合 X に対してその部分集合全体からなる集合 Y が存在すると主張しています.
この YX のべき集合(power set)と呼び, P(x) で表します.
べき集合の公理を使うと, 色々な概念を定式化することができるようになります.

集合 X,Y の直積(product)は X の要素と Y の要素を順に並べた順序対全体からなる集合で, 次のように定義されます.
X \times Y = \{(x,y):x \in X \wedge y \in Y\}
3つ以上の集合についても同様に定義され, 特に集合 Xn 個の直積は, 次のように定義されます.
X^n = \underbrace{X \times \cdots \times X}_{n \rm{times}}
直積が集合になることは
X \times Y \subset P(P(X \cup Y))
であることから保証されます.
例えば X=\{a\}, Y=\{b\} としたとき,
X \cup Y = \{a,b\}
P(X \cup Y) = \{\emptyset,\{a\},\{b\},\{a,b\}\}
なので,
\{\{\{a\},\{a,b\}\}\} \subset P(P(x \cup Y)
となり, 順序対 (a,b)=\{\{a\},\{a,b\}\} からなる集合 X \times Y = \{(a,b)\} が確かに P(P(X \cup Y)) の部分集合になっていることが確かめられます.
厳密には証明が必要です.

次に, 直積を用いて集合の関係を定義します.
しかし, 集合論で扱える対象は集合のみなので, 関係という概念もまた集合を使って表現しなければなりません.
今, じゃんけんについて考えてみます.
簡単のため, グー, チョキ, パーのそれぞれを a,b,c で表すことにします.
ここで, xy より強いことを (x,y) で表すことにすると, じゃんけんにおける強弱関係は
\{(a,b),(b,c),(c,a)
によって表現することができます.
つまり, 何らかの関係を表現するためには, 適当な順序対からなる集合を考えればよいわけです.
そんなわけで, 集合 R二項関係であるとは, R の任意の要素が順序対であることと定義します.
順序対ではなく, 順序を考慮した n 個の集合についても同様に定義できます.
n 項関係 RX 上の関係であるとは, R \subset X^n となることです.
(x_1,\cdots,x_n) \in R の代わりに R(x_1,\cdots,x_n) などと書いたりもします.
R二項関係の場合, (x,y) \in Rx R y で表すこともあります.
これは 3>5 などと書くのと同じようなことです.
二項関係 R の定義域(domain) \rm{dom}(R) と値域(range) \rm{ran}(R) は次のように定義されます.
\rm{dom}(R) = \{u:\exists v (u,v) \in R\}
\rm{ran}(R) = \{v:\exists u (u,v) \in R\}
これらが集合になることは, ともに \bigcup \bigcup R の部分集合であることから分かります.

関数の概念も同様に定義できます.
f(x)=y であることを (x,y) で表現すればよいのです.
したがって, 関数は二項関係の一種だと考えることができます.
ただし, 二項関係 f が関数であるとは
(x,y) \in f かつ (x,z) \in f ならば y=z
が成り立っているとき, かつそのときに限ります.
fX 上の関数であるとは, \rm{dom}(f) = X であることとし,
fX 上の n 項関数であるとは, \rm{dom}(f) = X^n であることとします.
fX から Y への関数であるとは, \rm{dom}(f) = X かつ \rm{ran}(f) \subset Y であることです.
X から Y への関数全体を Y^X で表します.
Y^X \subset P(X \times Y) であることから, Y^X は集合です.
fX 上の n 項演算であるとは, fX^n から X への関数であることとします.

Jechの「Set Theory」には他にも色々書いてありますが, 段々と面倒になってきたので省略します.