円に内接するn角形の面積の公式

三角形の三辺の長さから三角形の面積を求める公式として、ヘロンの公式は有名です。
三辺の長さを a, b, c, そして s = (a+b+c)/2 とおくと、三角形の面積 S は
S = \sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)}
で表されます。


ではでは。ヘロンの公式を拡張して、四角形の面積を、その四辺の長さから求める公式は、作れないものでしょうか?
作れません。
何故かというと、四辺の長さが与えられても、四角形の形と面積は一つに定まらないからです。
さあ、困りました。困りましたよ。
こうなったら、何か制約をつけなければなりません。
結論から言うと、「円に内接する」という条件を付け加えれば問題解決です。
円に内接する四角形で、四辺の長さが与えられたものは、形と面積が一つに定まります(もっと一般に、n 角形でも同様のことが成り立ちます。)
また、全ての三角形は円に内接するので、「円に内接する」という条件を加えるのはごく自然なことです。
というわけで、円に内接する四角形の四辺の長さが a, b, c, d のとき、s = (a+b+c+d)/2 として、その面積 S は
S = \sqrt{(s-a)(s-b)(s-c)(s-d)}
で表されます(証明は省略)。
これはブラーマグプタの公式と呼ばれます。


さてさて。今度はブラーマグプタの公式までをも拡張して、円に内接する n 角形の面積を、その n 辺の長さから求める公式を作れないかと考えたいと思います。
というか、おそらくこの記事を読んでおられる方々は、既に考えを巡らしている最中のことでしょう。
しかしながら、残念ながら、五角形以上では同様の公式が存在しないことが証明されています。
あれまー。
ちなみに、厳密に証明されたのはつい最近のようで、日本人の方々が貢献されています。
それから、ここで言う公式というのは、各辺の長さに対して四則演算やべき根を取る操作を組み合わせて得られる式、という意味です。


公式が存在しないことの理由ですが、賢明なる読者諸氏はもうお分かりかと思われますが、代数方程式の可解性の問題に絡んできます。
端的に言うと、5次以上の代数方程式に解の公式が存在しないことと関係してます。
より詳しい説明は数学セミナー(2009年11月号)を参照して頂きたいのですが、n = 5 の場合の概略を述べると次のようになります。


五角形のある対角線の長さを x として色々計算すると、面積 S と x との関係式が出来上がります。
そして、そこから「x を求める公式が存在することと、S を求める公式が存在することは同値」であることが確かめられます。
ところで、x はある5次方程式の解になっています。
5次方程式の可解性を判定する方法はガロア理論によって確立されているので、うんたらかんたらやっていくと、その5次方程式が解けないことが分かります。
というわけで、S を求める公式も存在しない、ということが結論付けられます。
ちゃんちゃん。


n が 6 以上の場合については、色々な工夫が必要になるそうで、数学セミナーにもごくごく簡単なアウトラインしか載っていません。
詳しく知りたい方は、元論文を読んでみるといいかも。
こちらから買えるようです。


もしかしたら、もっとずっと簡単な、高校生にでも理解できるような証明方法もあるかもしれません。
そうでなくても、ガロア理論を使っても良いのであれば、何とかできそうな気がしないでもないような。
興味のある方は、別証明に挑戦してはいかがでしょうか。